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   昼過ぎに鳳が約束のテニスクラブに到着すると、すでに何ゲームか終えているのか、

   宍戸はうっすらと全身に汗をかいていた。

   久しぶりに見た宍戸のテニスウェア姿に、鳳は懐かしさを感じた。

   それとともに、見慣れていた氷帝のレギュラーウェアではなく、白い私物のウェアだったので、

   宍戸は本当に引退してしまったのだと思い、寂しい気分にひたった。

   「長太郎、良く来たな〜。すぐ打てそうか?」

   宍戸は待ちきれない様子で、開口一番にそう言った。

   「ええ、もちろんですよ」

   鳳はラケットをバックから取り出しガットをチェックしたり、ボールの数を確認したり、急いで準備を始めた。

   「宍戸サン、聞いても良いですか? ここへは、良く来ているんですか?」

   「ああ、テニス部引退してからすぐな。進学試験が終わってからは毎日通ってるよ」

   宍戸に電話をかけても、いつも留守だった謎はすぐ解けてしまった。

   「え? でも何でですか? 言ってくれたらウチのテニスコートもあるのに。

   確かにここと違って屋外で寒いかもしれないけど……」

   「あのな〜お前が部活で留守なのに。オレだけが、お前の家に行ってどうするんだよ?」

   確かに、宍戸の方が正論だった。打つ相手のいないテニスほど寂しいモノは無い。




  ところで、このテニスクラブは完全会員制の高級な部類だった。宍戸が会員とはとても思えなかった。

   今いるテニス場も、芝と土のコートが2面あるが、完全に仕切られた<個室>になっていた。

   宍戸とコーチらしき人しかいない。どうやら宍戸の貸切らしい。

   そのコーチも、TVで何度か見た事のあるプロ選手だった。鳳が来たので退室して行ったけれど。

   「もう一つ、聞いて良いですか? ココってもしかして跡部先輩がらみですか?」

   「ああ、跡部の親父の持ち物らしいぞ。おかげでオレ達はタダだ」

   と笑顔の宍戸を見ながら、鳳は来たそうそうガクリと疲れてしまった。

   このテニスクラブの名は<KEIGOテニスクラブ>だった。

   (いくら子供が可愛くても、普通そのままの名前は使わないだろう)

   (さすが跡部先輩の父親だ)

   (でも跡部先輩と宍戸さんって、友達って訳じゃ無いみたいだけど。 けっこう仲は良いんだよな)


   「また、来年も跡部たちと一緒だぜ。 高等部もうるさくてかなわね〜な」

   そう言って笑う宍戸の声は楽しそうだった。  しばらく3年の先輩達の話が続いた。

   その輪には絶対に入る事の無い、2年生の自分。

   宍戸がそういう話をする時に、鳳は決まってとても寂しい気分になる。

   一人だけ置いていかれるような、そんな嫌な感じがするのだ。

   (俺も宍戸サンと同じ年に生まれたかったな)

   (もし同じ学年だったら、もっと早く知り合う事ができたのに)

   (もっと一緒にいられるのに)

   鳳は、宍戸よりも年下な自分がいつも嫌でたまらなかった。

   それは言っても仕方の無い話なので、鳳は誰にも自分の気持ちを打ち明けた事が無かった




                                   
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