3ページ目/全7ページ 昼過ぎに鳳が約束のテニスクラブに到着すると、すでに何ゲームか終えているのか、 宍戸はうっすらと全身に汗をかいていた。 久しぶりに見た宍戸のテニスウェア姿に、鳳は懐かしさを感じた。 それとともに、見慣れていた氷帝のレギュラーウェアではなく、白い私物のウェアだったので、 宍戸は本当に引退してしまったのだと思い、寂しい気分にひたった。 「長太郎、良く来たな〜。すぐ打てそうか?」 宍戸は待ちきれない様子で、開口一番にそう言った。 「ええ、もちろんですよ」 鳳はラケットをバックから取り出しガットをチェックしたり、ボールの数を確認したり、急いで準備を始めた。 「宍戸サン、聞いても良いですか? ここへは、良く来ているんですか?」 「ああ、テニス部引退してからすぐな。進学試験が終わってからは毎日通ってるよ」 宍戸に電話をかけても、いつも留守だった謎はすぐ解けてしまった。 「え? でも何でですか? 言ってくれたらウチのテニスコートもあるのに。 確かにここと違って屋外で寒いかもしれないけど……」 「あのな〜お前が部活で留守なのに。オレだけが、お前の家に行ってどうするんだよ?」 確かに、宍戸の方が正論だった。打つ相手のいないテニスほど寂しいモノは無い。 ところで、このテニスクラブは完全会員制の高級な部類だった。宍戸が会員とはとても思えなかった。 今いるテニス場も、芝と土のコートが2面あるが、完全に仕切られた<個室>になっていた。 宍戸とコーチらしき人しかいない。どうやら宍戸の貸切らしい。 そのコーチも、TVで何度か見た事のあるプロ選手だった。鳳が来たので退室して行ったけれど。 「もう一つ、聞いて良いですか? ココってもしかして跡部先輩がらみですか?」 「ああ、跡部の親父の持ち物らしいぞ。おかげでオレ達はタダだ」 と笑顔の宍戸を見ながら、鳳は来たそうそうガクリと疲れてしまった。 このテニスクラブの名は<KEIGOテニスクラブ>だった。 (いくら子供が可愛くても、普通そのままの名前は使わないだろう) (さすが跡部先輩の父親だ) (でも跡部先輩と宍戸さんって、友達って訳じゃ無いみたいだけど。 けっこう仲は良いんだよな) 「また、来年も跡部たちと一緒だぜ。 高等部もうるさくてかなわね〜な」 そう言って笑う宍戸の声は楽しそうだった。 しばらく3年の先輩達の話が続いた。 その輪には絶対に入る事の無い、2年生の自分。 宍戸がそういう話をする時に、鳳は決まってとても寂しい気分になる。 一人だけ置いていかれるような、そんな嫌な感じがするのだ。 (俺も宍戸サンと同じ年に生まれたかったな) (もし同じ学年だったら、もっと早く知り合う事ができたのに) (もっと一緒にいられるのに) 鳳は、宍戸よりも年下な自分がいつも嫌でたまらなかった。 それは言っても仕方の無い話なので、鳳は誰にも自分の気持ちを打ち明けた事が無かった。 |
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